フォーマルシューズをご検討されているお客様からのオーダーで製作しました。豪華客船飛鳥Ⅱのクルーズに参加されるとのことで、礼装のディナーに履いていける靴としてお探しでした。エナメルのオペラパンプスを作ろうかと思っているけど・・・というご相談を受けました。
アーチケリーのHAND MADE はデザインの自由度はあるものの、木型とゲージは決まっています。足を計測して木型を起こし、仮靴を作って確かめるビスポークとは異なり、1足目のオーダーで履き口の広いオペラパンプスをお作りするのには抵抗がありました。
そこで、内羽根のプレーントゥをおすすめさせていただきました。今回のお客様のように、フォーマルシューズとしてはオペラパンプスが真っ先に思いつきます。でも、このエナメル内羽根プレーントゥもポピュラーです。紐で留めるタイプのこの靴なら、アーチケリーが初めてのお客様にも安心して製作することができます。
さて、フォーマルユースのエナメルの靴は、オペラパンプスと内羽根プレーントゥ、この2足にストレートチップを加えたラインナップが現在の解釈というところでしょう。さかのぼって1960年代のジョンストン&マーフィーのカタログでは、オペラパンプスと内羽根プレーンがフォーマルシューズとして紹介されています。
さらに古い1918年Stetsonのカタログでは、パテントレザーのブーツがフォーマルユースとして掲載されています。ブーツが多かった当時としては、不思議なことではありません。
同じくStetsonのカタログ、1924年のものには短靴オックスフォードのプレーントゥが紹介されています。今回のオーダーのものと同じタイプ、少なくとも100年前から存在しているようです。
ブーツから短靴への変化がおよそ100年前、そこからフォーマルユースの靴はほぼ変わらないスタイルを通してきたということになります。この100年のファッションの大きな変化から比べると、いかにフォーマルスタイルというものが変わらずに厳格さを保っていたかということを感じさせられますね。
さてエナメルの革ですが、上記のカタログにも素材はパテントレザーと表記されています。エナメルで表面を防護した革が開発され、その特許=パテントを取ったレザー、ということでパテントレザーと呼ばれるようになりました。19世紀の初めにはすでにパテントレザーは存在していたというのですから驚きです。
海外ブランドのエナメルの靴を見ると、PATENT LELATHER での表記ばかりですので、革の素材を「エナメル」と呼ぶのは日本特有なのかもしれません。
Overton Black Patent - Crockett & Jones今回の靴のアッパーのパテントレザーは国産のものを使いました。エナメル処理で一見違いが判らないかもしれませんが、加工前の革も良質なものを選ぶことでシワの入り方、耐久性に大きく差が出てきます。
フォーマルということで、見える部分は真っ黒に統一。腰裏、半敷きの革はブラックのカーフを使い、もちろん、ソールも全カラス仕上げとしました。
紐はドレッシーに見えるようシルクサテンのリボンを採用しました。黒一色に仕上がったこの靴でパテントレザーのシルク、それぞれの光沢の対比が面白いですね!高級感のあるフォーマル靴として完成しました。
素敵なオーダーありがとうございました。